*『影』 作者 : Rin

_前書き_
これは短編となっております。少し時間が空いたな、少し暇だな。そんな人に時間つぶしに読んで頂けたら幸いと思います。ですがここでひとつ注意を。うしろはみないほうがよろしいかと。
ではつぎのぺーじよりはじまります。ごゆっくりどうぞ。*


おお。思ったよりは雰囲気あるな。平仮名になっているあたりが特に。さて、本編を読むか。
電灯の音はもう聞こえなくなっていた。



ある日、私は僅かな月明かりを頼りに夜の田舎町を歩いていた。学校のことで、親と喧嘩して家を飛び出してきたのだ。
ここ最近は喧嘩ばかりで、最後にまともに話したのはいつだろうと考えてしまうほどである。

ふと気がつくと、私は商店街にいた。いくつかの電灯が切れかけてセミのような音を立てていた。昼間は住民たちで賑わうこの商店街も、シャッターが閉まり閑散とした様は、人々に忘れられた廃墟のような印象を私に与えた。

「まるで廃墟みたい。でも素敵。現実から切り離された世界みたい」

私は、ただの寂れた商店街にしか見えないこの風景に心を奪われていた。学校でも親との関係もうまくいかない日々を送り続け、疲れ退屈して生きるくらいなら。

「いっそこの世界に溶け込んでしまいたい」

馬鹿馬鹿しいとわかっていながらもそんなことを呟いた瞬間、音が切れた。
てっきり電灯が切れたのかと思ったが、見てみるとさきほどと変わらず切れかけの状態で、音だけしなくなるのはおかしいように思われた。そこで気づく。切れたのは電灯の音だけではない。自分の呼吸も、衣擦れの音も、靴が地面を擦る音も、僅かな風の音も、何もかもが、聞こえない。

状況が理解出来ず、機能しなくなった耳をおさえて立ち竦む。何が起きたの?こんな突然耳が聞こえなくなるなんて、あり得るの?
無音の世界に怯えながら辺りを見回すと、何か違和感を覚えた。しかし、それが何かわからない。

「……え?」

発したところで自らの耳には届かない声を漏らす。いつしか自分の足元から、五つの影が伸びていた。自分を中心として多方向からスポットライトを当てられているかのように、影は均等にのびている。
どれも自分と同じ動きをする、自分の影。だというのに、湧き上がってくる恐怖を抑えられない。心を鎮めようと両手を胸に当てた、その時。

影は、だらりと両手を下げた格好をした。
私の両手は私の胸の前にある。なのに影の両手はだらりと垂れている。理由なんてわからない。ただただこの目の前で起きている奇妙な出来事に思考が追いつかず、もうどうすることもできなかった。