これでいい。これがいい。
 もちろん辛いこともあるけど、それよりも、呆れる気持ちの方が大きいから。よくも毎日飽きないね、って。
 スタスタと歩き、すうっ、と息を吸い込んでから、下駄箱に手をかけた。
 …この私の下駄箱は、まるでビックリ箱だもん。
さ~て、今日は何が入っているのかな?
 なーんて、明るいもんじゃないんだけど。
パカッ。
 開けたと同時に目に移るのは、ズタズタに切り裂かれた上履き。
 「はぁ…」
これにはさすがに…
とは言っても、こんなこともあろうかと、上履きの予備は所持してますが。
 カバンから新品の上履きを取り出して、それを履く。と同時に、下駄箱のなかのそれをつかんで、ゴミ箱に放る。
 様子見で来ていたらしき集団が、あからさまに愚痴を溢す。
 「はぁ~?つまんな」「ムカつく。なめてんの~?」
 …はぁ。ため息つきたいのはこっちだよね。
…まぁ、これが私の望むことなんだけど。
 目立たず、地味に。ただ、やりすぎたのか、別の意味で目立つ生活になっちゃったんだけど。
 「…まじつまんな。もういいよ、皆、結果見に行こ」
 一人が言うと、その集団は意味ありげに私を見る。
 「ま、あのクズ女は、どーせ最下位だよね」「あはっ、見なくてもわかるじゃん」
 私は、その人たちに見向きもせずに教室へ向かう。
見なくても、わかる。私は最下位。
 …そう、仕組んであるから。
テストなんて私受けてない。皆の受けるようなテストは。
一人だけ、別に受けてる。だから、結果は国には残されても、この学校には残されない。
 成績でクラスが決まる。最下位の私は、Eクラス。
だから、正直授業は暇でしょうがない。
仕方ないから、授業は全部睡眠時間。
代わりに、家でもっと上の勉強をしてるから、問題はない筈。
勿論、魔法の練習だってしてるよ。
学校ではわざと下手くそに演技してる分。
 今だってそう。
この人形を、魔法で動かすという、いかにもEクラスって感じの、初歩的魔法。
こんなの、100体同時に違う動きをさせるくらいにはできるけど、成績最下位としてはそれはタブー。
「………」
ちっとも動かない人形。
魔力を送ってないし、当たり前だけど。
 するとその時、
 「クスクス…何あれ~」
笑い声のする方向を見れば、Aクラスの女子達だ。
 真ん中で、いかにも女王蜂のように笑うのは、リタ。
黒い髪を揺らして、紅い瞳を嘲笑するように歪めている。
「全然動いてなーい。魔法使いに向いてないんじゃないの?」
 回りの取り巻きも、コクコクとうなずいている。
「しかも、いっつも無表情だしぃ~?
あのクズの方が、人形として操られた方が、まだ使えるんじゃない?」
周りからも笑い声がする。
 見て、聞いている筈の先生も何も言わない。しない。
私の事を知っているのは、学校内で校長先生だけだから。
あの先生も、私を才能のないクズと思ってるんだろう。
…今の私は、本当にそうなんだけど。