ずず、とマグカップの中身をすするのんちゃんを、私はただぼーっと見つめる。
「……まぁそれにしても。」
私の視線に気づいたのんちゃんが、マグカップから口を離した。
「バレンタインに別れ話なんて、詩帆もブラックやな、」
「……………バレンタイン。」
苦笑いののんちゃんに、私は呟く。
ーーーそうか。バレンタイン。
すっかり忘れてしまっていた。
そんな恋人同士にとって重要なイベントですらないものとされるほど、私たちは危なかったのか。
なんて、どんどん暗くなっていく思考に、嫌気がさした。
「バレンタイン……か。
…最後の、賭けに出てみようかな。」
そんな私の呟きが聞こえたのか聞こえていないのか、のんちゃんはまたマグカップの中身をすすった。
僅かに緩くなったそれを、私も口に含む。
優しい甘さとチョコレートの苦味が広がって、くすりと笑みがこぼれた。
「皮肉なもんよね。」
「…たまたまや……」



