祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―

「お役に立ててなによりです」

 リラもまた、ソーサーにカップを戻し、にこりと微笑んだ。調査から戻った二人は、リラの自室でフィーネの淹れたお茶を堪能している。

「ヘルプスト区に行かれたなら、市(いち)が賑わっていたんじゃないんですか?」

 エルマーの空になったカップにお代わりを注ぎながらフィーネが尋ねた。朝焼けのような明るい色の液体からは微かに柑橘系の香りがする。

「ええ、相変わらずすごい人でしたよ。僕たちは行きませんでしたが」

「そうなんですか。なら、リラさま今度一緒に行きましょう!」

 急に話題を振られてリラは目を丸くする。実は遠目に市を見て、密かに気になっていたので、フィーネの申し出は有り難かった。

 人も物も多く、楽しそうな雰囲気。目を奪われそうな多くの品々。じっくり見てみたいという気持ちが自然と湧いてきた。けれど

「この見た目だと、難しいかも」

 苦々しく笑いながら、リラは自身の髪をひと房摘まんだ。銀髪に紫の瞳。城の中でさえ、この外見について色々と言われるのだ。あんな人の多いところに行けば、注目を浴びるのは目に見えている。

 それに対し、フィーネかエルマーが口を開こうとしたそのときだった。ノック音が聞こえ、三人の注目がそちらに集まる。入ってきたのはヴィルヘルム、そして

「やぁ、こんにちは。初めまして!」

 姿を視界に捉えるなり、ブルーノは一目散にリラのところに歩み寄った。突然の見知らぬ男の登場にリラはとっさに身構える。ブルーノは胸に手を置き、膝を折ってリラを見上げた。