祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―

 紅茶のいい香りが立ち込め、鼻孔をくすぐる。そして、行儀が悪いのを承知で、わざとカップを両手で持つと指先からじんわりと温もりが伝わり、リラは安堵の息を吐いた。

「いやぁ、それにしても助かりました。何人か同じような証言があったので気になっていたのですが、自然現象という形で決着がついて」

 かちゃり、という音を立て、一度カップをソーサーに戻したエルマーが晴れ晴れした顔で笑った。

 とある大樹の元で『悪魔が出る』との噂が民衆の間で広まっているのを聞きつけ、リラを連れて調べに出たエルマーだったが、リラの目に邪悪なものが映ることもなく、結果的に葉鳴りと突風により葉が舞い上がったのを勘違いしたのだろうという結論になった。

 その証拠に、齢数百年を思わせるような大樹は、幹も太く立派なもので、葉は重たそうに枝を揺らしていた。秋も深まり、これからどんどん葉を落としていくのだろう。

 葉が舞うのを見るだけで圧倒されるものがあったので、人々が勘違いしたのも無理はなかった。

 怪我が回復してから、リラはこうしてヴィルヘルムの祓魔の仕事を手伝うようになった。と言っても、ヴィルヘルムが祓魔を行うことはほとんどない。

 むしろ、本当に王が出向く必要があるのか――悪魔が絡んでいる事案なのか――判断するための下調べの手伝いだ。

 今までは周囲から情報を集め、過去の事例から共通点を探りだしたりと、慎重に結論を導き出していたが、リラの瞳によって、その結論はあっさりと得られるようになった。

 おかげで主にひとりで下調べ業務を請け負っていたエルマーは、リラに感謝するばかりだ。いつもなら数日かかる調査が、こうしてまったりお茶を飲める余裕さえできてしまうのだから。