祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―

「この城に今日来て、面白い話を聞いたんだ。なんでもヴィルヘルム陛下のお気に入り、いや客人として少し前から城に滞在している女性は、研ぎ澄まされた剣よりも見事な銀髪の持ち主だって」

 ここで初めてヴィルヘルムは顔を上げてブルーノを見た。チェシャ猫のような含みのある笑みを浮かべ、その後ろでは彼の付き人が平伏しそうな勢いなのが対照的だ。

「世継ぎを作らないと周りがやきもきしている中、随分ご執心みたいじゃないか。そんなに俺に会わせたくない? ますます興味が湧くなー」

 最初から自分の反応を窺うために、わざわざ訊いてきたのかと思うと嫌悪感が吹き出る。しかし、ブルーノがそういう性格なのはとうに知っている。

 代々続く交流に、ブルーノとヴィルヘルムは友人と呼ぶにはあまりにもむず痒いが、お互いにあまり猫を被らないですむ相手ではあった。

「彼女には仕事を手伝ってもらっている」

「ああ、あの裏家業の」

 なんでもないかのように放たれた言葉にヴィルヘルムは眉をつり上げた。王家の祓魔の力は、王の近しいものと、四大方伯の当主のみが知るものだ。どうやらブルーノは次期当主ということで例外のようだが。

 どこまで本当かはヴィルヘルムも知らないが、元々方伯たちも王家と同じように祓魔の力を宿していたという。その力は徐々に弱まり、今は王家のみが、その力を受け継いでいるという話だ。

 ブルーノは口の端をさらににやりと上げる。

「それなら尚更会ってみたいな。今日はその話もしにきたんだ」