祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―

 今のリラは、踊るどころか、歩くのさえも不恰好だった。身に纏う布は上半身にぴっちりと添い、ウエストでぎちぎちに締められている。

 それでいて下半身に広がるスカートは足元を確認することもできない。そんな状態でダンスの練習をした後だとなれば、足が棒になるのも無理はなかった。

「まっすぐに歩けない」

「なに仰ってるんですか。当日ご用意するドレスは、こんなものではありませんよ」

 フィーネに支えられながら、リラはげっそりとした。ダンスのステップを習う前に、まず指摘されたのはリラの服装だった。

 今までは怪我をしていたことも考慮され、着脱しやすい簡素な服装をしていたため、そのままの格好で練習に赴(おもむ)いたのだが。

『舞踏会で踊る一番基本のワルツは回転やスイングが多くて、女性は優雅にスカートを翻すのも特徴です。なにより、“彼女”もドレスを着ていたのでしょう?』

 あの人のいい笑顔は有無を言わせない強さがある、と改めてリラは思った。まずは形から、と言ったところか。

 フィーネに頼んで、貴族の女性たちが普段着用するタイプの控えめなドレスをお願いしたのだが、リラにとっては、とてもではないが、普段から着用できそうもない。

 服を重いと感じたのは初めてだ。最後までリラが歩く死者と接触することに反対していたフィーネだったが、リラの意志を汲み、こうして協力してくれることになった。

「いかがですか、ダンスの方は?」

「先生がいいから、なんとか……」

 苦笑しながらリラは答える。エルマーとの練習を始めて、早三日。本人は教えるのがあまり上手ではないと言っていたが、指示は的確で、分かりやすい。

 舞踏会で踊ることはあまりないそうだが、貴族の嗜(たしな)みとして、それなりに踊れるということだ。