祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―

「よかったのですか、ルシフェル様」

「シェーネムント」

 大樹の上に立ち、遠くから城を眺めているルシフェルに声がかかった。

「久しぶりの帝国はどうだ?」

「あまり変わっていませんね。あなたが仕事を溜めているのも相変わらずのようですが」

 わざとらしくシェーネムントは肩をすくめる。そしてルシフェルと同じように城の方に目を向けた。

「契約は無効にされ、長らくの間、封印されるし、もう散々でした。ルシフェルさまには、随分と手を煩わせてしまいましたが……。あの娘の目を見えるようにする必要はありましたか?」

「封印されていた身としては面白くなさそうだな」

 からかうように言うと、シェーネムントは当たり前です!と腹立たし気に答える。

 あちこちで、同胞が人間と契約を交わし、好き勝手しているのが窺えた。そもそも悪魔を神と対比させ、絶対悪にしたのは人間だ。そんな存在を望んだのも。

「なに。いつも私利私欲のために我々を呼び出し、契約を結ぶ者が多い中で、他人のために、なかなか肝が据わっていると思っただけさ」

 けっして報われないのを覚悟して、そこまで誰かのためにできる人間はきっと少ない。けれど、できる人間もいる。それを改めて実感させられた。納得しきれていないシェーネムントにルシフェルは不敵に笑う。

「心配しなくても、その分、きっちり働いてもらう」

 またひょっこりと顔を出せば、リラはどんな態度をとるのか。どうせ、いつもと変わらないのだろう。この地獄帝国の皇帝でもあり、すべての悪魔の頂点に君臨する自分に対してでも。

 だから、今はどうか久々の再会を噛みしめて、幸せに浸ればいい。甘く飼い慣らされる日々の先に待っていたものを受け入れた結果だ。

 この出会いが運命だったのか。様々な思惑と策略、そしてほんの少しの当てつけによって出会ったふたりが、その答えを知ることはない。知る必要もない。どちらにしろ、互いに背負う辛い宿命と哀しい過去に翻弄されながらも、出した答えに偽りはないだろう。 

 ヴィルヘルムが婚約を発表し、その相手が没落したズーデン家の血を引く者であること、美しい紫の瞳を持ち王家にまつわる呪いを解いたことなどが国民に知らされ、リラの存在が歓喜されるのは、もう少し先の話だった。

Ende gut,alles gut.