「私の祖先が勝手にしたことでしょ? 私には関係ありませんよ。まったくいい迷惑です。おかげで私が今までどんなふうに生きてきたか」

 今までのリラからは考えられないような冷たい声だった。リラは自分の体をぎゅっと抱きしめて力を入れる。

「だから王家が憎かったんです、ヴィルヘルム陛下、あなたが。自分の運命は受け入れている? ええ、そうでしょうね。なんたってそちらが撒いた種なんですから。その泥をかぶった私たちのことなど考えることもなく悲劇の国王気取りですもん」

「貴様!」

 激昂しそうになるクルトをリラは睨みつけた。ヴィルヘルムの顔がわずかに歪んで、痛みに耐えるような表情が視界に入る。心臓が打ちつけるように痛い。けれど、それを悟られるわけにはいかなかった。

「なにも知らない能天気な王家の皆様に取り入ってから、真実を告げてやろうと思ったんです。苦悩させてやるつもりでした。陛下が少しでも私に興味を持ってくだされば万々歳でしたが、まさか飼い猫にしていただけるなんて」

「リラ」

 ヴィルヘルムが再び、リラに歩み寄ろうとする。それを叫んで拒絶した。

「触らないで!」

 一瞬だけ、ふたりの視線が交わる。しかしリラはすぐに顔を背けて距離をとった。

「本当はあなたに触られるの、死ぬほど嫌でした。そばにいるなんて冗談じゃありません。……ルシフェル」

 そこでリラは牢の中に視線を走らせて、呼びかける。その名前に、そこにいた全員の顔が強張る。