「待て待て待て、なんでそこまでもう一つの世界に拘るんだよ。って言うか何でもう一つの世界の存在をそんなに信じられるんだ? 俺なんてまったく持ってそんな存在信じてないぞ」
「そんなの楽しそうだからに決まっているじゃない。考えてもみなさい。こんな退屈しかない世界じゃなくて、何もかも心が躍るくらい楽しいようなもう一つの世界があるのよ。それはきっと素晴らしいところだわ。まさしく桃源郷ね。私はそんな世界をこの目で見てみたいのよ」
両手を腰に宛がい、胸を張りながら話終える巫部だが、なぜそこまで荒唐無稽な事を信じてるてんだ? 俺には到底理解できないレベルに達しているような気もするのだが。
「これで、もう一つの世界について理解できたでしょ。さあ、明日から探しまくるからそのつもりでいることね」
堂々と言い切った巫部は颯爽と踵を返し、それを無言で見送ることしかできない俺と麻衣。
数秒後に麻衣が口を開いたのだが、俺にはその時間が数十分にも感じられた。人間、突拍子もない話を聞いた後は脳が無意識のうちに脳が記憶を削除にかかるらしい。
「ねえ、もう一つの世界を探すなんて楽しそうね」
「おいおい、麻衣まであんな奴の言葉を信じているってのか? 俺はまったくもって信じられないぞ。なんだよ、もう一つの世界って」
「でも、私たちがいるこの世界じゃなくて、もう一つの世界なんてロマンチックよねえ。一体どんな所かしら? 私はいるのかなあ」
若干うっとりぎみに語っているのだが、肯定派がここにもいるなんて、二対一でその訳のわからん世界とやらを探すはめになっちまったっていうのか? 俺には到底理解できないね。
さらに翌日の放課後、今日から捜索を開始すると朝から散々言われていたので、耳にタコどころか、ダイオウイカができてしまっている。が、そんなものに付き合ってられるかってんだ。ここは一大決心のもとホームルーム終了と同時に廊下へ向かいダッシュ! 昨日は見事にやられたが、今日は俺の方が一瞬早かった! 後方では、巫部が何やら叫んでいるが、そんなもん知るかってんだ。
さて、とは言ったものの、家に帰っても特にやることがないので、校舎内を意味もなく散策してみようか。さすがに上級生の廊下にいくのは躊躇われるので、もっぱら教室棟と渡り廊下で繋がった特別教室棟だけだが。
一階、二階を一通り周り、三階へと歩を進めた。階段を登るもこれといって何もない。そりゃそうだよな。いくら高校といえどもいきなり何か面白そうなイベント。そう、食パンを加えた美少女が走って来て、あの角で出会いがしらにぶつかり、「どこ見てるのよ!」的な言葉から始まる淡いラブストーリーなノリだ。
「…………」
やばい。冷静に考えるとすげー寒いじゃねえか。そんなラッキースケベ的なイベントはリアルではあり得ないってーの。
そんな、いっそうのこと二次元にダイブしそうな思考をしてみるが、当然のように特に何もないまま、三階の突き当たりまで来てしまった。
「しょうがない。戻るか」
端まで来てしまったのだから、後は階段を下りるしかない。下りの階段に一歩踏み出そうとした瞬間。俺は気づいてしまった。
「あれ……屋上があるのか?」
下りの階段の横には上りの階段。この階が最上階ってことは、残すは屋上のみってことになる。このまま帰ってもすることがなく、巫部に捕獲される可能性もあるので、乗りかかった船だぜ、と、俺は上りの階段に足を踏み出したのだった。
今さらながらに思うが、この一歩こそが日常と非日常の分水嶺だとは思いもよらなかった。退屈しのぎに屋上に行くだけなんだ。この時の俺を責められないよな。
ギギギと重い扉を開くと眩い光に包まれた。今まで校舎内にいたものだから、一瞬目が眩んでしまうが、そんなものは直ぐに収まった。
茜色に染まろうかという空と少しの羊雲。さらにフェンスの群れ。その奥には田植えを待つ田園風景。いたって普通、どこにである放課後の屋上だ。扉を出てみると心地よい風が頬を掠め、校庭からは運動部の掛け声が聞こえていた。
「なかなかいい場所じゃないか」
昼寝にはもってこいの場所だな。ここならば巫部の呪縛から逃れられるかもしれない。とりあえず散策してみるかと一歩踏み出したときだった。
「……?」
一瞬だが、何かが視界の隅に飛び込んだ。二度見するように視線を戻すと、夕日に照らされた人影らしきものがフェンスに背を預け、体育座りの格好で俯いていた。ここは学校の屋上だし生徒がいても不思議ではないのだが、良く見てみるとその人影はボロボロのマントを羽織っているじゃないか。
誰もいない屋上、いきなり現れた怪しい人影、ホラー要素満載でいつもの俺じゃ即行で逃げ出したくなるのだが、時の気まぐれか、その人影に興味を抱き一歩踏み出した。
とは言ってもいきなり近ずきすぎるのも何なので、十分に距離をとって覗き込んでみると、どうやらその人影は少女らしい。しかも同級生くらいだ。マントを羽織っているので制服のリボンはおろか制服そのものも見えないが、確かに少女が俯き加減に寝ている光景だった。
こんな所で一人マントを羽織っているってだけでなんだか穏やかじゃないじゃない気もするが、こんなところで眠り呆けているなんて、無防備もいいところだ。しかも、春になったとはいえ、こんな所で寝ていたら風邪をひいちまうんじゃないのか? もうすぐ下校時間だし、ここは起こしてやった方がいいのかねえ。
そんな軽い出来心的なノリだった。決して邪な考えがあったわけじゃないぞ、俺は少女の目の前に立つと、少し身を乗り出した。
「そんなの楽しそうだからに決まっているじゃない。考えてもみなさい。こんな退屈しかない世界じゃなくて、何もかも心が躍るくらい楽しいようなもう一つの世界があるのよ。それはきっと素晴らしいところだわ。まさしく桃源郷ね。私はそんな世界をこの目で見てみたいのよ」
両手を腰に宛がい、胸を張りながら話終える巫部だが、なぜそこまで荒唐無稽な事を信じてるてんだ? 俺には到底理解できないレベルに達しているような気もするのだが。
「これで、もう一つの世界について理解できたでしょ。さあ、明日から探しまくるからそのつもりでいることね」
堂々と言い切った巫部は颯爽と踵を返し、それを無言で見送ることしかできない俺と麻衣。
数秒後に麻衣が口を開いたのだが、俺にはその時間が数十分にも感じられた。人間、突拍子もない話を聞いた後は脳が無意識のうちに脳が記憶を削除にかかるらしい。
「ねえ、もう一つの世界を探すなんて楽しそうね」
「おいおい、麻衣まであんな奴の言葉を信じているってのか? 俺はまったくもって信じられないぞ。なんだよ、もう一つの世界って」
「でも、私たちがいるこの世界じゃなくて、もう一つの世界なんてロマンチックよねえ。一体どんな所かしら? 私はいるのかなあ」
若干うっとりぎみに語っているのだが、肯定派がここにもいるなんて、二対一でその訳のわからん世界とやらを探すはめになっちまったっていうのか? 俺には到底理解できないね。
さらに翌日の放課後、今日から捜索を開始すると朝から散々言われていたので、耳にタコどころか、ダイオウイカができてしまっている。が、そんなものに付き合ってられるかってんだ。ここは一大決心のもとホームルーム終了と同時に廊下へ向かいダッシュ! 昨日は見事にやられたが、今日は俺の方が一瞬早かった! 後方では、巫部が何やら叫んでいるが、そんなもん知るかってんだ。
さて、とは言ったものの、家に帰っても特にやることがないので、校舎内を意味もなく散策してみようか。さすがに上級生の廊下にいくのは躊躇われるので、もっぱら教室棟と渡り廊下で繋がった特別教室棟だけだが。
一階、二階を一通り周り、三階へと歩を進めた。階段を登るもこれといって何もない。そりゃそうだよな。いくら高校といえどもいきなり何か面白そうなイベント。そう、食パンを加えた美少女が走って来て、あの角で出会いがしらにぶつかり、「どこ見てるのよ!」的な言葉から始まる淡いラブストーリーなノリだ。
「…………」
やばい。冷静に考えるとすげー寒いじゃねえか。そんなラッキースケベ的なイベントはリアルではあり得ないってーの。
そんな、いっそうのこと二次元にダイブしそうな思考をしてみるが、当然のように特に何もないまま、三階の突き当たりまで来てしまった。
「しょうがない。戻るか」
端まで来てしまったのだから、後は階段を下りるしかない。下りの階段に一歩踏み出そうとした瞬間。俺は気づいてしまった。
「あれ……屋上があるのか?」
下りの階段の横には上りの階段。この階が最上階ってことは、残すは屋上のみってことになる。このまま帰ってもすることがなく、巫部に捕獲される可能性もあるので、乗りかかった船だぜ、と、俺は上りの階段に足を踏み出したのだった。
今さらながらに思うが、この一歩こそが日常と非日常の分水嶺だとは思いもよらなかった。退屈しのぎに屋上に行くだけなんだ。この時の俺を責められないよな。
ギギギと重い扉を開くと眩い光に包まれた。今まで校舎内にいたものだから、一瞬目が眩んでしまうが、そんなものは直ぐに収まった。
茜色に染まろうかという空と少しの羊雲。さらにフェンスの群れ。その奥には田植えを待つ田園風景。いたって普通、どこにである放課後の屋上だ。扉を出てみると心地よい風が頬を掠め、校庭からは運動部の掛け声が聞こえていた。
「なかなかいい場所じゃないか」
昼寝にはもってこいの場所だな。ここならば巫部の呪縛から逃れられるかもしれない。とりあえず散策してみるかと一歩踏み出したときだった。
「……?」
一瞬だが、何かが視界の隅に飛び込んだ。二度見するように視線を戻すと、夕日に照らされた人影らしきものがフェンスに背を預け、体育座りの格好で俯いていた。ここは学校の屋上だし生徒がいても不思議ではないのだが、良く見てみるとその人影はボロボロのマントを羽織っているじゃないか。
誰もいない屋上、いきなり現れた怪しい人影、ホラー要素満載でいつもの俺じゃ即行で逃げ出したくなるのだが、時の気まぐれか、その人影に興味を抱き一歩踏み出した。
とは言ってもいきなり近ずきすぎるのも何なので、十分に距離をとって覗き込んでみると、どうやらその人影は少女らしい。しかも同級生くらいだ。マントを羽織っているので制服のリボンはおろか制服そのものも見えないが、確かに少女が俯き加減に寝ている光景だった。
こんな所で一人マントを羽織っているってだけでなんだか穏やかじゃないじゃない気もするが、こんなところで眠り呆けているなんて、無防備もいいところだ。しかも、春になったとはいえ、こんな所で寝ていたら風邪をひいちまうんじゃないのか? もうすぐ下校時間だし、ここは起こしてやった方がいいのかねえ。
そんな軽い出来心的なノリだった。決して邪な考えがあったわけじゃないぞ、俺は少女の目の前に立つと、少し身を乗り出した。

