家柄で言えば、彼女たちの方が上だ。
いわゆる「お嬢様」に怪我をさせて、万が一痕が残ってしまったら。そう考えると、まだ自分が負傷した方がましだと思う。
いくら護身術を身につけていたところで、結局権力には敵わない。
「あの子たちはだめで、君ならいいってこと?」
「そうですね。まあ私の方が、いいと思います」
そう言い切った私に、蓮様は眉根を寄せた。
「……何それ」
怒っているのだろうか。彼の感情はうまくつかめないけれど、限りなく不機嫌なのは分かる。
「顔に傷がついたら、君が好きな化粧なんかも満足にできなくなるよ。嫌じゃないの」
確かにそうかもしれない。
メイクは本来、より華やかに見せるためのもの。顔に傷を抱えたら、ただの隠す行為に成り下がってしまう。
「……私は、人にお化粧をするのが好きなだけですよ」
特に、今は。
私が特別扱いされるのなんて、花城家での話だ。聖蘭でも五宮家でも、私はただの生徒か使用人。
自ら、家柄というドレスを脱ぎ捨てた。重荷で、窮屈で、息苦しかったから。
いざ舞台から降りれば、照明が当たっている世界は、なんて生きやすかったのだろうと思った。無性に舞台上が輝いて見えて、今更また上りたいだなんて、思う資格はないのに。



