魔法をかけて、僕のシークレット・リリー



こちらに向けられた顔からは、もう緩やかなものは読み取れなかった。代わりに彼の瞳に宿るのは、至って真剣な色だ。

穏やかに静かに。感情の波も大きくなく、不必要だと判断したものはあっさり手放す。
私の中で蓮様はそういう認識で、だからこそ、彼の口から「やり返す」だなんて単語が出てきたことに驚いた。


「どうして、と言われましても……」

「いつも森田に技かけられてるけど、かわしてるでしょ。空手でもやってた?」


ぱちぱちと、瞬きを繰り返してしまう。

森田さんは相変わらず、掴みどころのない人だ。私のことを竹倉さんどころか誰にも言わず、ことあるごとに絡んでくる。
最近の森田さんのブームは、不意打ちで技をかけることだ。たまに草下さんも標的にされている。

それを蓮様が知っているだなんて、意外だった。
失礼なことに、私たちのことにはさほど興味がないのだろうなと思っていたからだ。


「ええ、まあ……護身術として、習っておりまして」

「ふーん」


また、ふーん、だ。多分、蓮様にとっての「ふーん」は、興味がないということではなくて、ただの相槌の一種なのだと思う。


「今日は本当に、自分のせいです。勝手につまずいて転んだだけですから」