そう告げられ、ほどなくして目の前の扉が開いた。
姿を現したのは、聞こえた声と違わず男性。黒いスーツに眼鏡、といういかにも真面目そうな雰囲気の彼は、三十代くらいに見える。
「は、初めまして! 佐藤百合と申します!」
何事も最初が肝心! 意気込んで深々と頭を下げた私に、相手からの返答はない。
恐る恐る姿勢を戻せば、目の前の彼は私を凝視して固まっていた。
「あの……?」
何だろう、この絶妙に歓迎されていない感じの空気は。
身だしなみに不備があったかな、とさりげなく自身の体に視線を落として確認しても、目立った汚れなどは見当たらない。
「ああ――失礼致しました。どうぞ、中へ」
私の声掛けで我に返ったらしく、彼はそう促すなり軽く頭を下げた。
お邪魔します、と足を踏み入れ、眼前に広がった内装に息を呑む。
玄関から入って正面、まず客人を迎え入れるのがホールだ。床一面は木目調のパネルが敷き詰められ、大きな照明が目に眩しい。
「佐藤様。こちらです」
「す、すみません」
高い天井を見上げて立ち止まっていると、急かされてしまった。奥へと進んでいく彼に、早足で着いていく。
「こちらの中でお掛けになってお待ち下さい。準備が済みましたらすぐに始めますので」
「え?」



