魔法をかけて、僕のシークレット・リリー



これは困った。主人の機嫌をこれ以上損ねるのはいただけないし、と首を捻る。
ぎっくり腰覚悟で一度思い切り抱き上げてみようか。そこまで考えた時、脳内に一つ選択肢が浮かんだ。


「葵様」


床に両膝をつき、四つん這いになる。
私の唐突な奇行に、やだやだ、とベッドの上で喚いていた葵様が目を丸くした。


「今から私は馬です。人を上にのせてお運びするのがお仕事なのです。葵様、乗って下さいますか?」


抱っこは無理でも、背中に乗せることならできるかもしれない。
きょとん、とした顔で黙り込む葵様に、両拳を上げて「ひひーん」と鳴いてみる。


「……しょーがないから、僕が乗ってあげる!」

「ありがとうございま――ウッ」


勢い良く私の背中に体重を預けてきた葵様。思いのほかダメージを受けてしまい、喉からみっともない声が漏れた。


「サトー、早く! しゅっぱつしんこう!」

「は、はい……ただいま……」


ばしばしと背中を叩かれ、返事をしながら必死に腕と足を動かす。
廊下は平坦だったから良かったけれど、階段が本当に大変だった。とにかく葵様がケガをしないように気をつけながら、慎重にゆっくり降りていく。


「もっと早く走ってよ! サトー、僕お腹空いた!」