魔法をかけて、僕のシークレット・リリー



返事がないということは、まだ眠っていらっしゃるということだ。

部屋の中に入ると、大きなベッドの上に一つ、小さな膨らみ。すっぽり掛け布団を頭まで被って寝ているようだ。


「葵様、朝ですよ」

「んん……」


布の上から軽く膨らみを撫で、努めて穏やかに声を掛ける。

もぞもぞと身じろぎした葵様は、布団から頭を出してゆっくりとその瞼を持ち上げた。
蓮様と同じ濃紺の瞳が、私を不思議そうに見つめている。


「誰……?」

「昨日ご挨拶申し上げた佐藤です。本日より葵様のお世話をさせていただきます」


まだ幼い主人に、そう伝えて頭を下げる。
途端、葵様の表情がパア、と明るくなった。


「もしかして、せんぞくひつじ!?」


かっ、可愛い――――!
無垢な笑顔が心臓へクリティカルヒット。思わず頬が緩みそうになるのを堪え、「左様でございます」と答えた直後。


「サトー、抱っこ!」

「えっ?」

「抱っこして! 起こして!」


寝転んだ状態で「抱っこ! 抱っこ!」と両手を伸ばしてくる葵様に、私は恐る恐る手をかけた。抱き上げようと力を込めるも、これはまずい、とすぐに悟る。
いくら幼いとはいえ、五歳の男の子。葵様をしっかり支えるには、私の腕力が足りないようだ。


「葵様、申し訳ございません。私が貧弱なもので……」

「やだ! してくれるまで起きない!」