はい、と返した自分の声は、酷く浮ついていた。
「……すごいです、本当に。全然知らない人みたい……」
「そりゃ良かった」
ここでは誰も私を特別扱いしない。「花城百合」じゃなくて、ただの見習い執事としてそれぞれ思ったように接してくれる。
叱責も侮蔑も、今の私にとっては毒じゃなくて薬だ。
「で、一つ聞きたいんだけど」
「何でしょう?」
私の両肩に手をかけ、森田さんが声を潜める。
「――何で花城のお嬢さんがここにいんの?」
息が止まった。この場で聞くはずもない名前が彼の口から飛び出し、心臓が嫌な音を立てる。
「なんの、ことですか」
「おいおいしらばっくれんのか? 嘘つくにしてももうちょい上手く吐けよ」
まさか彼は、最初から分かっていて私をここへ連れ込んだのだろうか。だとしたら誤魔化しようがない。
でも、私は今までほとんど社交の場に出たことはないのだ。私の顔を分かっている人は多くないだろうし、だからこそ強気でここに来ることができた。
「あんたがいつも通ってる美容室。あそこに、専門学校のとき研修で行ったことあんだよ」
「え……」
「随分と綺麗な顔したガキだなって思ったから覚えてるよ。店の前に高級車つけて、『あれはいいとこのお嬢様だ』なんて噂になってた」



