魔法をかけて、僕のシークレット・リリー



これまでとは違う、気迫に欠けた声。
目線を上げれば、鏡の中で森田さんと目が合った。


「ええ……? いや、私は思ったことを心の中にしまっておけないだけです、多分」

「それもそれでどうなんだよ」


気の抜けたように笑みを浮かべた彼が、「悪かったな」と口を尖らせる。


「えっ、何がですか?」

「てめー、せっかく謝ってやったのに言わせんのか!?」

「あ、罵られたとかってやつですか? 全然気にしてないので大丈夫ですよ!」

「ほんとうぜー……」


執事というよりかは、ガラの悪い美容師である。

それから森田さんは、至って真面目にカットしてくれた。美容師を目指していたというのはどうやら本当だったようだ。随所に現れる手際の良さに、何度も驚かされた。


「ほい、完成」


つんつん、とつむじを突かれて、首をすくめる。
鏡に映る像と対峙すれば、そこにはすっかりショートカットで落ち着いた自分の姿があった。


「結構メンズっぽいけど……案外似合ってんじゃん? てかお前、頭ちっさいのな」


別人、みたいだ。自分のことなのに、まるで違う人を見ているみたい。
黙って見とれていると、森田さんが「おい」と私の肩を小突く。


「聞いてんの?」