魔法をかけて、僕のシークレット・リリー



「そこ、座れ」


彼が指したのは鏡の前の椅子だった。先程いた部屋からは移動し、周囲は静かだ。

てっきり説教でもされるのかと思っていたけれど、椅子の向きを鑑みるとそうではないようだ。

鏡に向かって腰を下ろした私に、森田さんは胸ポケットから一枚の大きなハンカチを取り出す。それをケープのように私へかけた。
一連の動作があまりにも洗練されていて、声も出せず見入ってしまう。

と、彼の手が私の髪をわしわしと掻き乱した。


「ひゃ……!? え、な、何ですか!?」

「うるせー。こんな髪じゃだらしねえから、俺が切ってやるっつってんの」

「えっ」


そんな軽いノリで!?
いや、自分で適当に切っておいて今更だけれど、彼に任せて本当に大丈夫だろうか。

私の不安を察したのか、森田さんは「心配すんな」と鼻で笑った。


「こう見えても美容師目指してたんだよ、昔」

「ええッ、そうなんですか!? すごいですね」


美容師から執事って、一体彼にどんな心境の変化があったんだろう。
何だかすごい人だなあ、と感嘆していると、私の頭を掻き回していた彼の手が止まる。


「……お前、さっき散々俺に罵られて、よくそんなこと言えるな」