魔法をかけて、僕のシークレット・リリー



やや息を弾ませている彼は、その口ぶりからすると私を探していたということだろうか。
確かに、ちょっと外へ出てくると言ったきりだ。正直、途中から彼のことを忘れていた。


「いくら人目のつかないところったって、わざわざ隠れる必要……」

「しー! 藤さん、しー、です!」

「はあ?」


唇の前で人差し指を立て、必死に声のボリュームを落とすよう訴えかける。
怪訝な顔になった藤さんは、それでも向こうにいる人物が目に入ったのか、「ああ」と小声で私を見やった。


「覗き見なんて、案外趣味悪いね」

「ち、違います。これは不可抗力というか……」


口ごもる私に、彼がさらりと述べる。


「あんたさ、あの御曹司のこと好きなんでしょ」

「……え、」

「それで多分、向こうも――いや、まあそれはいいか。一つ提案があるんだけど」


適当に濁した言葉をそのままに、藤さんは続けた。


「君は僕と結婚したくない。で、合ってる?」

「え、な、何で……」

「態度見てれば分かるよ。それで、僕も君と結婚したくない」

「さ、左様ですか」


そりゃあ政略結婚なのだから、そうなのだけれども。はっきり言われてしまうと何だか失礼な気もする。
しかし気怠そうな喋り方から一変、藤さんはその瞳に明確な意思を宿して、私を射抜いた。


「ねえ、協力しようよ。お互いにベストな結果で終われるように」