聞こえた声はやはり思った通りで、足音の正体は蓮様だった。
隙間から様子を窺う。彼には私のことがバレていないようで安心した。
「蓮、」
「桜。ちゃんと話したの?」
「……うん」
そう、と淡泊に頷いた蓮様は、椿様へと視線を移す。二人がまともに向かい合っているのは、随分と久しぶりに見た。
「蓮、ごめ――」
「やだ」
椿様の言葉を遮って、蓮様が短く拒絶する。それが意外だったのか、椿様は目を見開いた。
「ごめんって、それ何に対して?」
「……それは、」
「数えきれないくらいあるからいいよ。僕も、椿も。あと、桜も。全部なし。それでいいでしょ」
未だに煮え切らない様子の椿様に、「いいでしょ?」と蓮様が念を押す。
ようやく椿様が小さく頷いたのを確認すると、
「じゃあ桜。今度こそ、婚約破棄、ね」
蓮様はそう告げて、悪戯っ子のように目を細めた。
「じゃあって……そんな簡単に、」
「何言ってんの、僕と結婚する気なんてないくせに。椿と一緒に、親に頭下げれば?」
「私が言ってるのはそういうことじゃなくて! 蓮はどうするの?」
怒涛の急展開に、もはや表面的な理解にしか及ばない。
至極真面目に問いただす桜様に対し、蓮様は飄々と肩を竦めるだけだった。
「さあ」
「さあって……」



