私もそうだったよ、と付け加えた彼女が、ゆるく首を振った。
「でも、全然だめ。だって私、フランスにいる間、ずっと二人のことばっかり考えてたんだもの。二人のいる日本に帰りたくてたまらなかった。……おかしいよね。離れたくて留学したのは、私の方なのに」
桜様は言いつつ自嘲気味に笑って、それからすぐに声を潤ませる。
「お土産も……二人の分、普通に買ってきちゃうし、帰ってきてすぐ、蓮の家に行っちゃうし……」
切なさに頬を濡らす彼女を見ていると、自分の嫉妬がいかに浅いものであったかを自覚せざるを得なかった。
とはいえ、そう思えるのも今になってこそかもしれない。
無言に徹していた椿様が、僅かに顔だけ振り返る。
「……桜は、それを言うために俺を引き留めたの」
「違、」
「思い出話なら、悪いけど付き合えない」
そう告げた彼は、今度こそ歩き出してしまう。
ぽろぽろと涙を流していた桜様が、刹那、顔を引き締めた。
「私は……椿が好き!」
彼女の心の底からの叫びだった。長年のしがらみから解放されたような、清々しい鳥の鳴き声にも思えた。
「あの時、蓮のことが好きって嘘ついて……傷つけたのに、今更遅すぎるけど……でも、私はずっと、椿が好き」



