至近距離で見ても、彼女は綺麗だ。そんな場違いなことを思う。
今しがた桜様が発した言葉を、にわかには信じられなかった。


「一年前、日本を発って……もう椿には会いに行かないって決めてた。それなのに、さっき顔を見たら全っ然だめ」


ゆっくりと目を伏せながら、桜様は嘆くように零す。
穏やかに、気丈に振舞う彼女はそこにいなかった。目の前の彼女は、今はただ一人の女の子として恋を憂いている。


「私、やっぱり……」

「桜様」


私の両肩に置かれた彼女の手。その上から自分のものを重ねて、微笑みかけた。


「笑って下さい。どんなに綺麗でも、そんなに悲しい顔をされていてはもったいないですよ」


一番大切な人が、教えてくれた。彼がかけてくれた魔法を忘れないように、私はずっと、何度でも繰り返す。


『そのまま笑ってなよ』


椿様からいつもほのかに香った、チェリーのコロン。
やっと分かった。彼はいつでも、「桜」を待ち焦がれていたのだと。

私は無理だったけれど、桜様にはどうか、自分の想いに正直でいて欲しい。


「さあ、桜様。行きますよ」

「え……? どこへ、」