椿の顔から表情が抜け落ちる。
僕が桜を好きになることはない。僕じゃ桜を幸せにすることはできない。それを骨の髄まで知ればいいと思った。知って欲しかった。

それがある種、彼にとって絶望の中の光になってくれますようにと、希うことしかできなかった。

僕らの関係性は更に捻じ曲がって、けれども時計の針は無情に進んでいく。
三人の中で、あの日から始まった全ての歪みについて触れるのは、何となくタブーになっていった。初めからなかったことのように、過去に蓋をして。

中等部になって三年目の夏、桜はフランスへ発つことになった。
空港への見送りにやって来た僕と椿に、彼女はほんの少しだけ困った顔をする。


「じゃあ、私もう行くわ。……ええと、二人とも、体調には気を付けて」

「桜」


意思の堅い声だった。椿が真っ直ぐ桜を見据える。


「元気でね」


またね、ではなくて。彼は明確に、別れを告げたかったのだと思う。


「うん。椿も、……蓮も、元気で」


この時僕らは、「ずっと一緒の幼馴染」に終止符を打った。