二人の表情をよく見比べるようになった。
椿の桜に対する目と、桜の椿に対する仕草。その空気感から、お互いに想い合っていることは日を追うごとに読み取れて。

このままでは決定的に間違ってしまう。確信と焦りが、自分の内側でじりじりと広がっていった。

そして、崩壊はいとも簡単に訪れる。


「蓮と桜って、結婚するんでしょ」


椿が僕に桜への気持ちを打ち明けた帰り道の、わずか半年後だった。
思えばその日は最初からずっと椿の様子がおかしくて、それは彼が僕らの婚約のことを知ってしまったからだと、ここでようやく悟った。


「……椿、ごめん」

「何で謝るの? 蓮が決めたことじゃないんでしょ」


言葉は優しいのに、椿の顔は全く僕を許していない。
それもそうだ。僕は一体、何に対してごめんと言っているのか、分からなくなってしまった。


「ねえ、蓮。どうして、あの時に言ってくれなかったの」

「椿、」

「協力するって言った。俺が桜のこと好きって知ってて、揶揄ってたの?」

「違う!」


思わず声を張り上げた時だった。僕らの背後から物音がして、咄嗟に振り返る。
地面に落ちたピアノの教本。呆然とこちらに視線を向けたまま立ち尽くす、桜の姿があった。


「桜、どうして……」