「蓮と桜は婚約者だ」


それは突然の通告だった。
といっても、当時の自分にとって突然だったという話であって、今となっては最初から決まり切っていたのだろうと容易に想像がつく。


「こんやくしゃ?」

「桜知ってる! ふにゃふにゃしてるけど、食べたらね、いーってしないと、噛み切れないの!」

「桜、それ、こんにゃく」


僕と桜と椿は、幼馴染でずっと三人一緒だった。お互いの家を行き来していたけれど、僕の家で三人揃って遊ぶことが一番多かったように思う。

この時期の桜は、来月から小学生になるからと、毎日遊ぶときにランドセルを背負ってくるような女の子だった。
今日も椿と一緒に僕の家まで来て、屋敷の中で鬼ごっこをしようと約束していた。

お父様に呼ばれたから、ついに家の中で走るのはやめなさいと怒られると思っていたのに、どうしてか、僕と桜だけを連れて来て、お父様は真面目な顔で言う。僕と桜は、婚約者だと。


「……二人は、結婚をするということだ。分かるか?」

「あ、分かるよ! けっこんって、ずっと一緒にいられることでしょ?」

「そうだな」


お父様が頷いたから、合っているのだろう。
桜は途端に得意げになって、「ほらね」と僕に歯を見せた。

ずっと一緒にいられる。それは間違っていなかったけれど、僕らは一番大切なことを分かっていなかった。
結婚は、一人と一人が、ずっと一緒にいるための約束であるということ。

僕と、桜と、椿と。このまま三人、「ずっと一緒に」いられると、幼い僕らは信じて疑わなかった。