ああ。私はなんて自分本位な人間なんだ。
悲しいから泣いている。それは確かなのに、彼女の過去に同情したからでも、共感したからでもない。

蓮様と桜様が長い時間をかけて築いてきた絆には、自分は到底及ぶわけがないことを、ここでもう一度痛感している。

当然だ。彼女は美しい。芯があって、かっこいいから綺麗なのだ。
自分の夢のために、顔に傷を負った。それを後悔していないと、彼女は言う。


「ねえ。私、したたかなつもりだけれど、あの人たちの前では弱い自分が出てきてしまうの。だから、あなたが代わりに怒ってくれて嬉しかった」


ありがとう、と桜様は小さく息を吐いて、頬を緩める。


「桜様は、強くて素敵です」


震える喉を何とか制御して、私は告げた。
この言葉だけは、心の底から本当だった。いい加減に、全てを諦めてしまいたかった。

不意に嗚咽が漏れそうになって、唇を噛む。


「綺麗です。好きな人の隣にいるあなたは、世界一素敵なんでしょうね」

「あなた、やっぱり――」


桜様が立ち上がった。そのまま私の両肩を掴んで、真正面から瞳がぶつかる。


「違うの。私、」


彼女の指が食い込む。唇が動くのを、ただ見つめた。


「私、椿が好きなの」