咄嗟に、顔から地面に転んだ。
そう打ち明けた瞬間、彼女は過去の記憶を辿ったかのように眉根を寄せる。
「手は無事だったし、ピアノも弾ける。後悔はしてないの。傷だってもう痛くない、メイクで隠れるから。……でも、傷は隠せても、あの時私の傷を見た人たちの記憶までは消せない」
「蓮様は、そのこと……」
「知ってるわ。蓮も、……椿も、私が転んだ時、近くにいたから」
自分の中で、一つのパズルのピースがかちりとはまる音がした。
『痕が残ったらどうするの』
『腕じゃなくて、もし顔だったら、どうしてたの』
私が転んで腕を擦りむいた時のことだ。蓮様は執拗にそう尋ねてきて、彼にしてはやけに饒舌だと不思議に思った記憶がある。
そうか、やっと分かった。蓮様は桜様のことを考えていたから、あんなに懸命に諭していたんだ。
軽率に傷を作らないこと。怪我をしないこと。彼が私にくれていた優しさは、それを桜様に重ねていたからで――
「……どうして、あなたが泣くの?」
黙り込んだ私を不審に思ったのか、桜様が振り返る。こちらを見た途端、彼女はそう言って目を見開いた。
「違、……違うんです、私」