魔法をかけて、僕のシークレット・リリー



そんな嫌味を言い放ち、桜様の顔をめがけて再びグラスに入ったドリンクが宙に舞う。
――哀しげに揺れた桜様の目が、いつかの蓮様と重なった。


「やめて下さい!」


咄嗟に叫んだのは、もう彼女の心がずたずたになっていたから。まるで彼女の気持ちを代弁するかのように、私はその時必死に声を上げていた。


「……やめて、下さい。お願いします」


何とも間抜けな仲裁だった。彼女たちとの間には妙な物理的距離があって、私は完全な部外者である。
けれども、相手の機嫌を損ねるには十分だったらしい。剣呑な声がこちらに飛んできた。


「どなたですの?」

「わ、私は……桜様の友人です」

「私たちも友人でしてよ。ねえ?」


左右の女性に同意を求めるように視線を移した首謀者は、くすくすと嫌な笑い方で威圧してくる。


「お言葉ですが、あなたの先程の発言はご友人に対するものとして相応しくないのでは?」

「あなたに何がお分かりになるの?」

「分かります。今の一瞬で分かりました。あなたたちが軽薄であるということ」

「軽薄ですって?」


眉をひそめた彼女が反論した。


「でしたら桜さんの方が軽薄ですわ。こんな方が五宮様の婚約者だなんて信じられない」