魔法をかけて、僕のシークレット・リリー



どっちみち、このままでは多方面に迷惑をかけてしまう。気分転換も兼ねて外の空気を吸いに行きたかった。


「……ちゃんと笑えるようになって戻ってくるので」

「別に無理して笑わなくていいよ。愛想なら俺の方がいいし」


慰めなのかフォローなのかよく分からない言葉をもらったところで、足早に出口へ向かう。

会場に併設された中庭には、プールも完備してあるようだ。呑気に観察していると、向こう側から話し声が聞こえてきた。
先客がいたのか。だったら退散した方がいいな、と引き返そうとした時。


「あら、ごめんなさい。手が滑りましたわ」


悪質な意思を含んだ声と共に、ぱしゃ、と軽い水音がその場に響いた。
思わず顔を上げて前方を窺えば、恐らく女性が数人。三、四人のドレスを着た若い彼女たちは、ある一人の女性と対峙するように向かい合っていた。

一人で立っている方のドレスには見覚えがある。だって、ついさっき見たばかりの、記憶に新しいものだから――


「随分綺麗になられていたから分かりませんでしたわ。桜さんでしたのね」


ワインレッドのタイトドレスを着ている桜様は、じっと黙って相手を見据えている。彼女の足元の地面が水に濡れ、色が濃くなっていた。


「上手にお化粧なさっているみたいじゃない? ほら。だって、顔の傷(・・・)。全然見えないんですもの」