魔法をかけて、僕のシークレット・リリー



耐え切れずにそう促せば、藤さんは察してくれたのか「そうですね」と頷く。私の腰に軽く手を回し、あくまで愛想良く会話を終わらせた。


「では、僕たちはこれで。失礼します」


彼の纏う雰囲気は独特で、主導権をいとも容易くかっさらってしまうような強引さをはらんでいる。最初はそれが気に食わなかったけれど、今はむしろ有難い。
私も彼にならって会釈をし、蓮様と桜様に背を向けた。

反対側に移動するまでの間、ちらほらと色んな人に話しかけられはしたものの、藤さんは適度に相槌を打って早々に切り上げる。先程まではもうちょっと丁寧に対応していたような。気のせいだろうか。


「酷い顔してるねー」


端のテーブルに着いてから、藤さんが世間話の延長線上のような声色で言った。
自覚はある。多分ほとんど笑えていないだろう。


「帰っても、いいですか」

「いいよ」

「……嘘です」

「めんどくさい嘘つかないでよ」


弱音を吐いてしまってから、やっぱりそれじゃ情けなさすぎるな、と思い直して撤回した。
はあ、とこれ見よがしにため息をついた彼は、それでもどことなく気遣ってくれているような気がする。


「すみません。少しだけ外に出てきます」