蓮様の第一声は、それだった。
絶滅危惧種を見つけた時のように。UFOを観測した時のように。彼の声には、複雑な不確かさが滲んでいる。
嫌だ。会いたい。会いたくない。花占いのごとく、あの日から今日まで交互に襲ってきた衝動。
でもこうして彼を目の前にした途端、ただ唇を噛んで俯くほかなかった。
「佐藤、どうしてここに――」
違う。やめて。私はもう、「佐藤」じゃない。あなたと半年間過ごした「佐藤」はもういない。
ずっと嘘をついていたの。偽りの私で、あなたの傍にずっといた。
だから、もう。
「“お初にお目にかかります”」
背筋を伸ばして、ドレスの裾を摘まんで。それから緩やかに口角を上げれば、淑女の出来上がり。
私は花城百合。花城家の一人娘。今ここにいる人たちには負けるけれど、令嬢としてのプライドはまだほんの少しだけ残っていた。
こちらを見つめてただ立ち尽くしている蓮様に、私は白々しく続ける。
「お会いできて光栄でございます。五宮様」
彼の瞳が揺れた。動揺と混乱と驚愕。
それを直視するのが苦しくて、目を伏せる。隣で藤さんがテンプレートのような挨拶と共に名乗るのを、黙って聞いていた。
「……藤さん。まだ向こうのテーブルに挨拶に行っていませんよね」



