と、そこで聞き覚えのある声に呼ばれ、振り返る。
「椿様?」
すぐ近くで数名の女性と話し込んでいたらしく、彼女たちに何やら一言二言告げると、彼はこちらに歩み寄ってきた。珍しく驚いたような様子で口を開きかけ、私の隣に視線を移す。
それに目敏く気が付いた藤さんは、瞬時に微笑んで会釈をした。
「初めまして。百合さんの婚約者の六角藤と申します」
「婚約者?」
さすが御曹司、どれだけ驚いても大声を上げることはないらしい。
ささやかに目を見開いた椿様が、「失礼」と詫びて口角を上げる。
「七重椿です。彼女とは学校が同じで」
「ああ、七重様ですか。こちらこそ失礼しました。いつも父がお世話になっております」
どうやら七重家は六角病院に出資しているようだ。二人の会話をぽつぽつと聞きながら、それは分かった。となると、今日は出資者を集めたパーティーということか。
何往復か会話をし終えて、二人の空気が落ち着く。
椿様は唐突に、私へと質問を投げてきた。
「ねえ、百合ちゃん。蓮は元気?」
ただでさえ引きつっていた頬が、余計にぎこちなく震える。さりげなく目を逸らしながら、私は精一杯声を取り繕った。
「さあ……きっと、お元気ですよ」



