このままじゃ埒が明かない。
そう思った私は、半ば投げやりに言い放った。
「とにかく、断っておいてよね。第一、自分の結婚相手は自分で決めるわ」
私が述べているのは、至極当然のこと。好きな人とお付き合いをして、結婚して、家庭を築いて。
でもそれは、私には許されていない。
「いくら百合の我儘でも、それは聞けないよ……」
「どうして?」
「そりゃあ……もうお相手にだって話を、」
「政略結婚だから?」
オブラートに包むこともなく、平然と聞いてのける。
目を伏せた父はそのまま黙り込んでしまった。
政略結婚。そんなものがまかり通る環境に、私はいる。
両親は国内外問わず活躍する敏腕医師だ。現に、母はオーストラリアへ出張中。
この春から高校生になる私は、父に話があると呼ばれて階下におりてきた。
来月――四月は私の十六歳の誕生日。プレゼントだよ、と渡されたのは、全く知らない男性の写真だった。
「す、すごく感じのいい人じゃないか。ほら、ハンサムだし、優しそうで……」
ハンサムって死語だよ、分かってる?
私の機嫌を取ろうと必死な父を、ジト目で眺める。
「かっこいいとかかっこ悪いとか、そういうんじゃないの。勝手に決めないでっていうことよ」