魔法をかけて、僕のシークレット・リリー



私の手をそっと包み込むように握って、稲葉がしゃがみ込んだ。


「どうか、泣かないで下さい。お嬢様のそんなお顔を見るのは、私も心苦しいのです」

『そのまま笑ってなよ』


こんな時にまで、脳内をジャックしないで。いつもいつも、気が付けばあなたの面影を探している。


『じゃあ、新しいおとぎ話をつくりませんか』

『いいよ。君は魔法使いね』


私は魔法使いになりたかった。何もできない、童話の中だったらきっとただの村人役だった私を、魔法使いにしてくれたのは蓮様だ。

でも、どうしたらいい? もう私、魔法は使えない。かぼちゃの馬車も、ガラスの靴も、何も生み出すことなんてできないのに。


「……違う」


私は、きっと、シンデレラになりたかった。
魔法使いは、自分に魔法をかけることはできないから。どこかでずっと、綺麗で高貴なプリンセスに憧れていたんだ。

灰かぶり姫のごとく埋もれていた私を、蓮様はいつも丁寧に拾い上げてくれたから。夢みたいで、きらめいていて、特別な女の子になった気でいた。

――でももう、それも終わり。
十二時の鐘は鳴った。私はガラスの靴の、片っぽさえも落としてこなかった。だから王子様は探しに来ない。