魔法をかけて、僕のシークレット・リリー



親が勝手に決めた大して知らない人と結婚するなんて、御免だと思っていた。今だって気は進まない。
でも、私もきっと頑なになっていた部分はある。会ってみなきゃ分からない、という母の主張はあながち間違っていなかった。

だって、どうせ私は自分の望んだ相手となんて結婚できない。心から愛する人と幸せな家庭を作る――そんな幻想は抱けない。

私がもっと素直に相手を受け入れる努力をすれば良かったんだろうか。
かっこよくて、優秀で、家柄もつり合っている。これ以上何を望むんだろう。本来なら、それこそ「優良物件」のはずなのに。


「お嬢様……」


なんて、こんなの全部、自分に言い聞かせるための正論だ。本当はずっと、ずっと。


「どうして、」


どうして忘れられないんだろう。こんなに沢山、毎日沢山、目まぐるしいほど違うことを考えているのに。
脳の奥に焼き付いて離れないの。ドレス、コスメ、アクセサリー。見たら思い出してしまうから目を閉じても、浮かんでくるのは大切だった日々の愛しい記憶だけ。

本当はずっと、忘れたくなんてなかった。世界がきらきらと輝いて見えて、少し苦しいけれど、それは幸せを伴った痛み。
あなたの隣にいられないのは辛い。でも、全てをなかったことにするのはもっと辛い。


「お嬢様」