俺が言うなり、竹倉は手元の資料をデスクに広げる。
身元調査書、と記された紙には、佐藤改め花城百合の名があった。


「身寄りがないのに聖蘭へ通えるわけがない。仮に莫大な遺産を抱えていたとして、五宮家(ここ)で働くというのがそもそもおかしな話だ」

「じゃあ何で採った」


身元調査が済んだのは、少なくとも草下と佐藤を受け入れてから数日後になるだろう。不確定要素が多すぎる。
そんな怪しい人物を、竹倉が受け入れたことに疑問が尽きなかった。


「……髪を、」

「は?」

「目の前で自分の髪を躊躇なく切り落としたんだ。邪魔だから、と言って」

「ああ……聞いたな、それ。まじでイカれてる」


度胸だけは一人前というか、向こう見ずなところはある意味、お嬢様らしかった。
彼女がどうして家を出てまでここに来たのか。一体何が望みだったのか。それは俺の知るところではないが、何とかなるだろうという彼女の浅はかさは、令嬢の宿命を逃れられない。


「その時の目が、どうにも忘れられなくてな」


竹倉が渇いた笑みを浮かべる。彼の笑った顔を見るのは、これで二度目だった。


「……どうすんだよ、この後」