酷い言い草だ。仮にも初対面の人に、そこまで言われる筋合いはない。
反駁しようと口を開いた時、杏の弾んだ声が部屋中に響いた。
「せっかくですし、少し海辺に行きませんか? パラソルも用意させますわ。日には焼かれたくないですもの」
夏らしい提案である。その場の同意は過半数で、目の前の澄んだ海へと足を運ぶことになった。
桐生、と呼ばれていた彼にまた何か言われるのではないかと思ったけれど、彼の主人はカナヅチらしく、外に出てからはずっとつきっきりだった。
杏が砂浜でバレーをしようと言い出すので、私はその要員として駆り出される羽目に。
しかしまあ、お嬢様たちのスポーツなんてたかが知れている。誰も必死にボールを拾いに行かないし、お淑やかにパスを繰り出すだけだ。
その中に混じってうっかり本気でプレーしてしまうと、当然――
「さすがです、百合様!」
「まあ、素敵。惚れ惚れしますわ!」
「百合様、こちらにも手を振って下さい!」
惚れ惚れしなくていいから、頭上を通り過ぎていったボールを取りに行って欲しい。
仕方なく歩き出した瞬間、風が前髪を持ち上げる。その風に乗って、砂浜を転がっていたボールは海の方へと走り出した。
「わっ」



