魔法をかけて、僕のシークレット・リリー



舌打ちでも聞こえてきそうなほど冷酷に悪口を言っていたくせに、数秒後には笑顔を張り付けてわざとらしく丁寧に諭してくる。意地が悪いというよりも、なんて器用な人だ、という感想が先だった。

とはいえ、苛立っているのには変わりない。
なめられるのも癪なので思い切り睨み返してやる。と、私の顔を凝視したまま相手が固まった。


「何ですか」


訝しみながらも問いかければ、彼の無機質な瞳がみるみるうちに開いていく。刹那、両肩を勢いよく掴まれた。


「……お前、まさか」

桐生(きりゅう)、どうしたの?」


彼の声を遮ったのは、柔らかい声だった。別段鋭くもなく、強制力もない優しい問いかけだったけれど、彼にとっては十分に効いたらしい。
ぴたりと彼の動きが止まり、私から離れる手。深々と私――ではなく声の主に頭を下げた彼は、恭しく宣った。


「申し訳ございません、(ゆず)様。ご歓談のお邪魔をしてしまいまして」

「邪魔ではないけれど……お知り合いの方?」

「いいえ、私の勘違いです。失礼致しました」


不思議そうに首を傾げた彼女は、彼の主人だろうか。きっぱりとした物言いに納得したのか、また会話に戻っていった。


「おい」