主人二人が談笑の輪に加わったのを見届け、邪魔にならないところで待機しようと壁際に寄った時だった。
隣にいる男性からそんな声が上がったので、つと視線を移す。
「あの、何か……?」
真っ白なワイシャツに品の良いグレーのベスト。首元のクロスタイがきっちりと締まっており、少し暑そうだ。
彼もきっと執事なのだろう。セットされた黒髪が真面目な印象を与えた。
「あんた、何。コスプレ?」
「え? いえ、私は執事ですが……」
あなたほど上等な執事服は、まだ見習いだから着られないですけど。脳内でそんな言葉を付け足す。
第一声から私に対する蔑みが滲んでいたので、自然と身構えてしまう。しかし彼は私よりも一層、眉間に皺を寄せていた。
「は? 女が執事? ……意味分かんないんだけど」
小さく呟かれたそれに、むっとしてしまったのは致し方ないと思いたい。
イライラは心のうちに留め――たものの、元の性格上、黙っていることもできず。
「随分大きな独り言ですね。聞こえていますよ?」
「……うざ」
「あっ、暴言!」
「執事たるもの、そのように取り乱してはいけませんよ。素養が足りませんね」



