魔法をかけて、僕のシークレット・リリー



いつになく真面目腐った声で、森田さんが告げる。芯のある言葉が重みを伴って、廊下に鳴り渡った。


「……何で?」

「私の判断です。今の佐藤を蓮様にお引き合わせするのは、適切ではないと思いますので」


長い沈黙が場を貫いた。その間、私はうっかり鼻をすすってだらしない音を立てることのないよう、細心の注意を払って呼吸を整える。

そうして、しばらくは膠着状態だった。お互い静かに向かい合っているらしい。


「佐藤。そのままでいいから聞いて」


蓮様が唐突に口を開いた。


「今は戻るけど、後でちゃんと話したい。最近、君の顔もろくに見てない気がする」


正直、今日はもう彼の顔を見られないだろう。では一体いつになったらきちんと話せるのか、それは私も分からなかった。


「……そろそろ、君が淹れたお茶が飲みたい」


そんなささやかな願望を最後に、足音が遠ざかっていく。どうやら、蓮様が引いて下さったようだ。安堵した途端、体から力が抜ける。


「おい、佐藤」

「はい。……あの、すみません、ありがとうござ」

「草むしりしてこい。そんで、汗かいたら風呂入れ」

「わ、分かりました」

「風呂から上がったら今日は適当に部屋掃除して寝ろ。お前は風邪だ。病人だ」

「え? いや、全然元気ですけど……」

「うるせえ!」


ぴしゃりと言い捨て、森田さんが踵を返す。彼なりの慰めだと気付き、有難く従うことにした。