魔法をかけて、僕のシークレット・リリー



その時、耳をつんざくような声が背後から飛んできた。
単純にびっくりして体が縮こまったのと、焦りで硬直したのと。とにかく、絶対に振り返ってはいけないことだけは確かだった。


「あー……蓮様、どうかされました?」


今世紀最大に気まずそうな森田さんの質問。私は、ただひたすらに直立不動で森田さんのお腹辺りを見つめ続けることしかできない。
彼は一歩大股で踏み出し、私を背中に隠してくれた。今更感は否めないけれど、仕方ない。


「森田じゃなくて、佐藤に用がある」

「え~……佐藤ですか? 佐藤ならあっちの方に行きましたけど」


いくら何でも白々しすぎる。私のテストの点数をみんなに吹聴していた時よりも悪質だ。
当然、それで引き下がる蓮様ではない。


「何で森田が匿ってるわけ?」

「匿ってるだなんてそんなー……はは、いやあ困りましたねえ」

「森田、そこどいて」


どうしよう、森田さんが困ってるなんて激レアだ。これは本当に困ってる時のやつだ。
もうこの際、覚悟を決めて蓮様の前に出て行こうかと思った時。


「――申し訳ございませんが、そのご命令には従いかねます」