ひどい。どうして、そんなことを言うの。自分のことを慕って一生懸命に尽くす人に、どうしてそんな冷たいことが言えるの。
桜様に同情したわけではないけれど、蓮様の発言はどうしても納得できなかった。
怒りなのか、失望なのか、悲しさなのか。どれも正解で、どれも違う気がする。
だけれど、あのとき一番心を抉られたのはきっと――
『見返りが欲しいから、尽くすんでしょ』
まるで自分に言われているような気がしたから、なのだろう。
その場で咄嗟に怒れなかったのも、寄り添えなかったのも、蓮様の言葉で自分が傷ついていたからだ。浮ついた私の心の内を見透かすかのように、しっかりと釘を刺されたからだ。
「ぉあっと――佐藤かよ。危ねぇなー、前見て歩け……」
曲がり角から現れた人影が、頭上で文句を垂れようとして固まる。
「……おい。どうした」
真剣味を帯びた森田さんの声が、ぐんと低まった。両肩を掴まれ、半ば強引に顔を覗き込まれる。
「お前、なに泣いてんだよ」
「泣いて、ないです」
「はあ? あほ、号泣じゃねえか」
すすったら負けな気がして放置していた鼻水を、森田さんがティッシュで拭いながら「汚ねぇな」と顔をしかめる。
「お前さー、せめて自分の部屋で泣けよ。まあ色々あんのは分かるけど――」
「佐藤ッ!!」



