彼の声色は、驚くほど変わらない。海底に足をつけたように、ぶれることなく続いた。
「『僕が喜ぶと思った』? 違う。『好きになって欲しいから』だよ。そんなのは奉仕でも何でもなくて、承認欲求を満たすためのエゴじゃないの」
やめて。どうして、そんなこと。
「見返りが欲しいから、尽くすんでしょ」
荒々しい音を立てて、ドアが開いた。否、私が開けた。
目を見開いてこちらを振り返る二人の顔。自分の呼吸。心音。断片的に情報が脳を駆け巡る。
確固たる意志を持って開けたはずなのに、衝動的なものだったのだろうかと錯覚してしまうくらい、混乱していた。
「……失礼、致しました。あの、いちごを……もしよろしければお二人で、」
上手く話せているのかもよく分からない。
どうぞ、だか何だか曖昧なことを吐いて、プレートを置く。
「佐藤」
今回は幻聴などではない。確かに呼ばれた名前に、それでも私は顔を上げることができなかった。
黙礼をして、逃げるように部屋を出る。
『桜が僕に尽くすのは、自分のためでしょ』
ひどい。
『そんなのは奉仕でも何でもなくて、承認欲求を満たすためのエゴじゃないの』



