シツジだから。――だから、傍にいるのが当たり前。どんなに尽くしてもそれは仕事。
義務、役目、責任。私に求められているのは事務的なものだけ。最初からずっと、そういう約束だったはずで。
彼を見る目が変わってしまったのはいつからだったんだろう。どきどきして、緊張して、鼓動が速くなってしまったのは。
純粋な忠誠心が私利私欲と混じっていくのを、自分自身も止められないまま。基準のラインを越えて、それ以上の気持ちが籠ったサービスを施してしまった。
綺麗な布をかけて誤魔化して、その中はみっともない衝動でいっぱいだったのに。
「どうして? 蓮、前は専属執事なんてつけてなかった。こういう風に世話焼かれるの、本当は嫌なんでしょう。だから私にもそうやって言うんだよね?」
自身に言い聞かせるかのような桜様の問いかけに、蓮様が答える気配はない。刹那、悲痛なまでの声が耳朶を打った。
「でも私は、蓮に好きになってもらいたいんだよ……! もうこれ以上、何をすれば蓮は私のこと見てくれるの?」
あまりにも切実でストレートな懇願。真っ直ぐに自分の気持ちを伝えられる彼女が、羨ましいとすら思ってしまうほど。
二度の沈黙。今度は蓮様が口を開いた。
「桜が僕に尽くすのは、自分のためでしょ」



