魔法をかけて、僕のシークレット・リリー



中からは間違えようもない、蓮様と桜様の会話が聞こえてきた。
一区切りついたタイミングで入室しようと、息を潜めてドア横で待機することに決める。


「給仕とか、使用人みたいなこと……桜がする必要ないでしょ」

「別に、お茶淹れるだけじゃない。このくらいしてもいいでしょう?」

「本来なら、それは佐藤の仕事。桜がすることじゃない」


自分の名前が登場して、どきりと心臓が跳ねた。
やはり、桜様にこんなことをさせてしまったのはまずかったのだろうか。とはいえ、彼女の提案を拒否することも憚られる。


「蓮が、喜ぶかと思って」

「前も言った。そんなこと、桜に求めてない」


淡々とした声が、静かに否定した。

確かに、桜様は蓮様に対して甲斐甲斐しく振舞うことが多かったように思う。しかしそれは、謙虚に夫を支える妻の如く清らかに私の目には映っていた。


「……あの子にはさせるのに、私にはさせてくれないんだね」


沈黙が落ちた空間に、桜様の寂しげな声が響く。
その瞬間、彼女の健気な想いに、嫌でも気付いてしまった。私と同じベクトルのそれは、私よりも可愛らしくて揺らぎない。

ああ、なんだ。そうか。だったら早い話だ。
桜様は蓮様が好き。二人は結婚する。何も問題なんてない。めでたしめでたし、平和なハッピーエンドじゃないか。


「佐藤は、執事だから」