魔法をかけて、僕のシークレット・リリー



気さくに窘められてしまっては、それ以上食い下がることもできない。
燻る感情を押し殺して、「では、お願い致します」と頭を下げた。

ぴんと伸びた彼女の背中を見送ってから、意図せずため息が漏れる。

桜様の申し出を咄嗟に断ったのは、本当に執事としてだったのか。それとも、私情込みの心の叫びだったのか。
それをはっきりさせたところで意味はない。結局のところ、自分が蓮様に会いたいだけだったんだろうな、と腑に落ちる。

しかしそれからというもの、私が彼と話す機会はめっきり減った。

蓮様と桜様がお二人でいるところを見ると、わざわざ割って入ることもできないし、第一、私がそのツーショットをあまり見たくはない。
それに加え、桜様はご自分でお茶を淹れるのがお好きなようで、彼女が来てから、私が蓮様にお茶を持って行くことはなくなった。

そんな日々が続き、カレンダーは八月を教えた。


「……また、こんなことするつもり?」


今日も一段と暑く、夏日和。
朝食の際、蓮様はあまり食欲がないようだった。いちごなら食べられるだろうかと、とびきり大ぶりのものを用意して、北海道産のミルクを使用した練乳を添えて。まさに彼の部屋のドアをノックしようとした時である。


「こんなことって?」