ぎこちなく微笑を張り付けて、たどたどしくお礼を述べた。
そんなことは知っている。私だって蓮様を近くで見てきたのだから。
熱いものが苦手。サンドイッチは卵一択。それから、林檎が食べられない。その他にも沢山、私は彼のことを知っている。知っている、つもりだった。
いま目の前にいる彼女は、幼い頃から蓮様の傍にいて、彼を見てきたのだろう。長い年月をかけて積み重ねてきた思い出も、信頼も、私じゃ比にならないくらい。
私だって――そう張り合おうとした気持ちはあっという間に萎んで、今はただ惨めなだけだった。
私だって、彼を近くで見てきた。見てきたから、何? 近くにいたからって、それがなんだっていうの? そんなことを言うなら、彼女の方がずっと近くにいて、ずっと彼を見てきたんじゃないの。
「それ、私が持って行くわ」
「え?」
ぐるぐると暗い思考回路に溺れていると、桜様がそんなことを言い出した。反射的に自分の口からついて出たのは、「だめです!」という否定の言葉で。
「そんなこと、桜様にさせるわけには……!」
「いいのよ、気にしないで。どうせ蓮のところに行くつもりだったから」



