二人の和気あいあいとした雰囲気に水を差すように。自分の口からは、つまらない嫉妬が滑り出る。
突然口を挟んだ私に蓮様はいささか驚いたのか、こちらをちらりと振り返った。桜様が私に視線を移して頷く。


「ええ、音楽留学で一年間。こう見えてもピアニスト志望だから」

「ピアニスト、ですか……」


なんと優雅な夢だろう。海外へ飛んで、実力があって、家柄も容姿も申し分ない。
そうか、こういう人が「お嬢様」というに値するんだろうな、と。わざわざ自分で自分を痛めつけるような確信を得てしまった。

フランスで出会った人、見つけた物、綺麗な風景。桜様は楽しそうにお話して、蓮様はそれをただじっと聞いていた。
そばにいる私ですら興味深く聞き込んでしまうほど、コミカルで素敵なエピソードの数々。本当に、どこまでも聡明で上品で、彼の隣が似合う人。

耐えなければ。蓮様に相応しいのは桜様。それをしっかり自分の目に、脳裏に、焼きつけなければ。

しかし限界は思ったよりも早く訪れた。私は談笑する二人に黙礼をし、なるべく気配を消してドアへと向かう。


「佐藤?」


退室する直前、蓮様の声が聞こえた気がしたけれど、それも幻聴だったんだろうか。だとしたら、自分はかなり末期なのかもしれない。