つと彼の視線が私へ流れて、不貞腐れたように眉根が寄った。それでも、どことなく弱々しい声に威勢はなくて、可愛い、と思ってしまう。
彼の瞳から哀しみを取り除きたい。最初はそれだけだったのに、色んな表情を見つける度、私の方が苦しいくらい、目が離せなくなっていた。きっと初めて会った時から、惹きつけられて仕方なかったのだけれど。
随分気付くのが遅い一目惚れだったな、と笑いがこみ上げてくる。
私の心臓の一番熱いところは、あの時から彼に主導権を握られたままだ。
「そのまま笑ってなよ」
蓮様の顔が近付いてきて、こつん、と額同士がぶつかる。ネイビーブルーに、侵食される。
「そ、……そんなに見ないで下さい。いま、ほとんどお化粧をしていないので……」
普段メイクをしていない状態で散々顔を合わせているくせに、ここまで近いと変に意識してしまう。
彼は目を逸らさない。真摯な顔で、至って真面目に述べた。
「化粧しなくたって、君は可愛いでしょ」
――ああ、もう、降参だ。
全身が彼の一挙一動に振り回されている。こんな強敵、どうやったって勝てっこない。
笑った顔が眩しいのも、拗ねた声がくすぐったいのも、触れた手を離したくないのも。全部全部、私の初恋をこの人に捧げてしまったせいだ。
「どんなに仏頂面が化粧しても、笑ってる顔には敵わないんだから」



