魔法をかけて、僕のシークレット・リリー



背中を押され、ドレスの裾を摘まみながらゆっくりと歩いていく。

試着室の更に奥まった場所にある扉。撮影用の部屋だろうか。
後方についていた女性に視線を送れば、彼女はにこりと微笑み、扉を開けた。

ひらけた視界、中はダンスホールのように天井が高くなっている。
そして一人――白いタキシードに身を包んだ彼が、振り返った。


「蓮様……」


ああ、なんて、なんて綺麗なんだろう。きっと、彼以上に白が似合う人はいない。

蓮様は私をじっと見て、呆けたように固まっていた。無理もない、彼の前で正装をしたのは初めてだ。
また「誰?」なんて、聞かれたらさすがにショックだな。そんなことを思いながら、声を掛けようとした時。


「百合」


瞳に穏やかな色を宿して、彼が二文字を紡いだ。その声があまりにも優しくて、不覚にも泣きそうになってしまう。


「百合。おいで」


蓮様が一歩踏み出し、こちらに手を差し出す。引き寄せられるように彼の元へ近付いて、私も自身の手を伸ばした。
二つの手が重なった瞬間、彼が目を細めて笑う。それを至近距離でまともに見てしまい、胸の奥の深いところを撃ち抜かれる音がした。


「れ、蓮様……あの、少し近い気が……」